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東京地方裁判所 昭和56年(手ワ)2303号 判決

原告 長澤弘志

右訴訟代理人弁護士 福島啓充

同 阿南三千子

同 門好孝

被告 田中博

右訴訟代理人弁護士 山本清一

主文

1  被告は原告に対し金一三二五万円及び金一五〇〇万円に対する昭和五五年九月一一日から昭和五六年六月二日まで、金一〇〇〇万円に対する昭和五五年九月一七日から昭和五六年六月二日まで、金二〇〇〇万円に対する昭和五六年六月三日から同年八月三一日まで、金一六五〇万円に対する同年九月一日から同年一〇月二六日まで、金一三二五万円に対する同年一〇月二七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

4  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二五〇〇万円及び内金一五〇〇万円に対する昭和五五年九月一一日から、内金一〇〇〇万円に対する昭和五五年九月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙約束手形目録のような手形要件が記載され、裏書の連続する約束手形二通(以下本件手形という。)を所持している。

2  被告は、本件手形に拒絶証書の作成を免除して裏書をした。

3  原告は、本件手形(1)を呈示期間内の昭和五五年九月一〇日、本件手形(2)を呈示期間内の同年九月一六日、いずれも支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

4  よって、原告は被告に対し金二五〇〇万円及び内金一五〇〇万円に対する昭和五五年九月一一日から、内金一〇〇〇万円に対する同年九月一七日から、支払ずみまで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因の認否

請求原因事実は認める。

三  抗弁

1  本件手形の振出人である株式会社ナガイ(以下ナガイという。)は原告に対し、昭和五六年六月二日、本件手形のうち元本五〇〇万円を支払い、同年八月二七日、本件手形のうち元本一三二五万円及び利息・損害金のすべてを免除し、元本三五〇万円は同年八月三一日、元本三二五万円は同年一〇月二六日支払った。右は東京地裁昭和五五年(ヒ)第一〇〇六号会社整理申立事件における整理計画案に原告が同意したことに基づくものである。

2  以上のとおり、本件手形は振出人の弁済及び振出人に対する免除によりすべて消滅したので、裏書人たる被告に対する請求は認められない。

3  かりにそうでないとしても、原告はナガイに対し、本件手形の振出日に、本件手形金額を貸付け、ナガイはその弁済のため本件手形を振出し、被告はナガイの右債務の保証のため、本件手形に裏書したのであって、保証債務の附従性から、原告のナガイに対する債務が弁済・免除により消滅した以上、被告の保証債務も消滅した。

四  抗弁の認否

抗弁1の事実は認めるが、その余は争う。原告とナガイ間の整理計画案の同意に基づく債務免除は被告には何らの影響を及ぼさない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

本件の争点は、整理会社ナガイと原告間の整理計画案の同意(いわゆる整理契約)に基づく債務免除が被告に影響を及ぼすかどうかである。会社整理についてその旨の規定はないが、破産法三六六条ノ一三、同法三二六条二項、和議法五七条、商法四五〇条三項、会社更生法二四〇条二項の趣旨を類推し、会社整理契約に基づく債務免除は債権者が裏書人、保証人に対して有する権利に影響を及ぼさないと解するのが相当である。このように解すると、一見、裏書人の担保責任、保証債務の附従性に反するようにみえるが、およそ担保責任や保証責任は主たる債務者の無資力により債務の完全な満足が得られない場合に備えるものであるから、裏書人や保証人が会社整理によって利益を受けるが如き結果になることを容認することは本来の目的に反するし、また、整理計画案に同意した債権者の合理的意思にも反することになる。したがって、前記のように会社整理契約に基づく債務免除は裏書人や保証人に対して影響を及ぼさないと解するのが合理的である。

そうすると、被告の抗弁2、3はいずれも採用できない。

三  以上によれば、原告の請求は約束手形金二五〇〇万円からナガイから弁済を受けた元金合計金一一七五万円を控除した金一三二五万円及び金一五〇〇万円に対する昭和五五年九月一一日から昭和五六年六月二日まで、金一〇〇〇万円に対する昭和五五年九月一七日から昭和五六年六月二日まで、金二〇〇〇万円に対する同年六月三日から同年八月三一日まで、金一六五〇万円に対する同年九月一日から同年一〇月二六日まで、金一三二五万円に対する同年一〇月二七日から支払ずみまでの手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村重慶一)

〈以下省略〉

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